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お口が開きにくい方への口腔ケア
[公開日:2019/10/30 /最終更新日: 2019/10/30 ]お口を開いてくれない原因は、一つではありません。患者さんによって、さまざまなケースがあります。だからこそ、まず患者さんのことを丁寧に見つめてください。何が原因かを見極め、患者さんの不安や負担を取り除くことができれば、気持ちよくお口を開けてくださることがあるのです。ケアをする私たちが「あきらめない」で、患者さんひとり一人に合った口腔ケアを考える。それはきっと、患者さんのえがおにつながります。
DENTAL HYGIENIST’S PROFILE
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公益社団法人 日本歯科衛生士会 会員
(在宅療養・口腔機能管理 認定歯科衛生士)
一般社団法人 日本老年歯科医学会 会員一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 会員
かめい ともこ
亀井 智子先生
開口拒否の原因を探しましょう
開口拒否には、大きく3つの理由があります。
「お口を開けてもらえないばかりに、口腔ケアができない」。
現場で患者さんに接していると、開口拒否の方にお会いすることがあります。これは、患者さん自身のことを思うと歯がゆい状態。ご家族や施設の方からも「どうすればお口を開けていただけるのか」「何かいい方法は、ないですか」と聞かれることも多いのです。
ケアができれば、清潔が保持できます。誤嚥性肺炎の予防や口腔機能の維持ができます。
そして、何より患者さんが「えがお」になれるのです。
私が、現場で接する開口拒否の方には、大きく3つの理由があります。今回は、それぞれの理由と対応の一例をお伝えしたいと思います。
「お口を他の誰かに触ってほしくない」方
1つめは、「お口を他の誰かに触ってほしくない」という気持ちが強い方たちのケースです。
この方たちは、お口の周囲や口唇が過緊張となり、力が入ってお口が開きにくくなっています。いきなりケアに入るのではなく、まず肩や腕から触り、顔、お口の周り、口唇とだんだんリラクゼーションしてあげて、「ケア=気持ち良いこと」だと感じていただくことが大切です。
リラクゼーションのポイントは、患者さんと目を合わせて、シンプルな言葉でゆっくり声をかけ、まず肩や腕にやさしく触れて信頼関係を構築してから、顔やお口に触れていきましょう。
「口すぼめ反射」が起きる方
2つめは、「口すぼめ反射(Snout reflex)」の患者さんのケースです。
これはご本人の意思とは関係なく起こる「原始反射」のひとつ。歯ブラシ等がお口の周囲に触れると、お口が勝手に閉じてしまい、開口しにくくなってしまうのです。
原始反射は生後、大脳の発達と共に消失していくものですが、脳障害によって再び出現してくることがあります。特に認知症の進行とともに、より強くなっていく傾向があります。
この方たちへのケアは、指を使って頬粘膜、口唇等をマッサージしてさしあげると、人の手によるあたたかさや安心感、心地良さを感じられてお口を開けていただけることがあります。
指使いは、歯の並びに沿って、指の腹で優しく、優しく。ゆっくり口腔内に入れてあげます。指先で、口唇を引っ張ることは避けましょう。
それでもうまくいかない時は、お口の粘膜に咬傷や口内炎があったり、歯がグラグラしていたり、痛みがあったりする可能性があります。
この場合は、歯科で診てもらい、原因を明らかにしてから解決されるとよいでしょう。
実際に、お口が開かずに食事を摂取しづらかった方が、グラグラしている奥歯を抜いたら、お食事を摂っていただけるようになった例もあります。
「痙性(けいせい)」をお持ちの方
3つめは、「痙性(けいせい)」と呼ばれる手足が固まっている麻痺をお持ちの患者さんのケースです。
この方たちの場合も、口元や口唇に力みが出ている時には、マッサージやストレッチを試みてから口腔ケアに入りましょう。
患者さんの心理的な負担を減らすこと。ケアする方があきらめないこと。
このように原因を取り除き患者さんの心理的な負担を減らすことで、お口を開けていただけることがあるのです。
開口拒否には何か理由があります。
まずは患者さんのことをよく見つめることからはじめてください。
そして、ケアをする私たちが「あきらめない」こと。
私は、このいちばん大切なことを、いつも患者さんと向き合う中で教えられています。