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摂食嚥下における先行期と口腔ケアの関係性
[公開日:2021/4/30 /最終更新日: 2021/4/30 ]日本の人口の高齢化に伴い、誤嚥性肺炎を罹患する患者様も近年増加傾向にあります。私たち言語聴覚士は、摂食嚥下機能の評価や訓練を実施することで、患者様の摂食嚥下機能低下を防ぎ、誤嚥性肺炎の予防に日々尽力しています。特に、現在の機能を見極めて誤嚥リスクを判断する「評価」の段階はとても重要であり、様々な視点で患者様を観察します。多くの言語聴覚士は、この評価の際に「嚥下の5期」を意識しており、患者様が食物を口に取り込む前から飲み込みが終わるまでを段階別に分けて考えています。今回はこの5期における最初の段階「先行期」と口腔ケアの関係性について説明します。
SPEECH-LANGUAGE-HEARING THERAPIST’S PROFILE
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大阪赤十字病院 リハビリテーション科
言語聴覚士
たかはし こうへい
髙橋 浩平先生
食前の口腔ケアで安全な食事を
先行期とは
摂食嚥下における先行期とは、視覚・嗅覚・触覚などにより食物を認識し口に運ぶ段階をいいます。食物が口の中に取り込まれる前ということもあり、摂食嚥下機能の評価において軽視されがちな部分ではありますが、安全に食事を進めていく上で非常に重要な段階であるといえます。
人はこの先行期において食物を認識することで、「この食物は何か」「硬そうか、軟らかそうか」「一口の量はどれぐらいが良いか」などを判断しています。それにあわせて、唾液の分泌量が増えるなど口腔内も食べる準備を整えます。このように先行期では食事を開始するにあたっての様々な準備をしています。
先行期と口腔ケアの関係性
安全に食事を開始するにあたって重要な先行期ですが、様々な原因により問題が生じます。先行期を障害する一番の原因として挙げられるのが「覚醒状態の低下」です。高齢者では認知機能低下による日常的な昼夜逆転傾向、服用している薬剤の副反応など様々な理由で食事前の覚醒状態が低下します。覚醒状態が低下すると、先行期における食物の認識が十分にできなくなり安全に食事を進められなくなります。
食前の口腔ケアには口腔内の衛生状態を改善し湿潤させるだけでなく、患者様の覚醒状態を上げる効果があります。覚醒状態が上がると前述した先行期における食物の認識も正しく行われ、その後の咀嚼や飲み込みにも良い影響を及ぼし安全な食事を進めることができます。
食前の口腔ケアを心がけましょう
病院や介護現場において、日々のケアの中で食前の口腔ケアはルーティンにしていただき、できるだけ覚醒状態を上げることを意識した関わりを行なっていただきたいと思います。洗面台など鏡の前で確認しながら実施する、可能な部分はセルフケアで行い最終チェックを医療者が行うなど、色々と工夫しながら口腔ケアを行なってみてください。食前の口腔ケアが正しく行われると、摂食嚥下における先行期もスムーズにクリアされ結果的に誤嚥性肺炎のリスクも軽減できると思います。
★髙橋先生が携わる摂食嚥下障害予防普及団体SMAが運営する「嚥下チェッカー」はコチラ