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要介護高齢者に対するリハビリとは
[公開日:2022/7/29 /最終更新日: 2022/7/29 ]これまで「口腔ケアお役立ち情報」で嚥下訓練をいくつか紹介してきました。これらは論文で実証された効果的な訓練です。しかし、「うちの人は自力で身体を動かせないからできない」と思う方もいるのではないでしょうか。今回はそのような方に有効なアプローチをご紹介します。
DOCTOR’S PROFILE
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東京医科⻭科大学大学院 医⻭学総合研究科 医⻭学専攻老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーション学分野
医員・教授(診療科長)
いしい みき
石井 美紀先生
とはら はるか
戸原 玄先生
「食べる」を支えるお口と全身に刺激を与えましょう
口腔ケアもリハビリの一種
「口腔ケアについて」ページ 口腔ケアの手順Step.3で紹介されている通り、口腔ケアの一環で行われるマッサージ等も有効な手段の一つです。
普段は歯茎部分とぴったり接している頬粘膜や唇を歯茎から引き剥がすイメージで、大きく膨らませるように、スポンジブラシや指を使って伸ばしましょう。
この辺りが硬いと飲み込みの時に柔軟に動かすことができません。
<良い例>
• 唇(口の入り口)を広げ過ぎず、頬のみ伸ばす
硬い時に伸ばすと最初は痛いですが、ほぐれると痛くなくなります。
頬粘膜や唇と歯茎を繋ぐヒダを触ったり、唇を必要以上に横に引っ張ったりすると痛いので注意しましょう。
硬さが痛みの原因の場合、痛がるからといって触らないでいると、余計ひどくなってしまうことがあります。頬をのばす力やスピードを弱めつつ、動かし続けて下さい。
ヒダを触ったことが痛みの原因の場合、ヒダを横切るように触ってしまうと痛いので、そのような動かし方をしないよう注意すれば大丈夫です。
<悪い例>
• 唇を横に広げている
• ヒダに触る(触ると痛い)
目視でヒダの位置を確認しておくと安心です。
唇と歯茎を繋ぐヒダ(上唇小帯)は、だいたい正中(前歯の辺り)にあり、頬と歯茎を繋ぐヒダ(頬小帯)の位置は個人差があります。以下に位置を示します。
舌をスポンジブラシでグッと押すと、自然と押し返しがあります。
この反射を利用して、舌の筋トレを行うことができます。
舌に力が入っていない時は横にだらんと広がりますが、飲み込みの時には舌に力を入れて厚みがある状態になります。
上から押すだけでなく、力が入っている時の舌の形を思い出してもらうイメージで、歯と舌の隙間にスポンジブラシを挿入して舌の横からもグッと刺激しましょう。
日常の中で楽しく離床する(ベッドから離れて過ごす)
口から食べるためにはもちろん口の機能も大切ですが、それを支える全身の筋肉(特に体幹の筋肉)が重要です1,2)。
体幹の筋肉は抗重力筋が多いので、起き上がって重力に抵抗して過ごす時間を設けるだけでも衰えにくいです。
研究では、要介護度に関係なく1日合計4時間以上離床すると手足の筋肉量と嚥下機能が保たれ、1日合計6時間以上離床すると手足に加え体幹の筋肉量が保たれ、さらに嚥下機能が良く形のあるものを食べられる人が多いという結果でした3)。
この離床時間は生活動作中の離床(車椅子に移って食事をする等)も含みます。
別の研究では、要介護度に関係なく離床して活動したり外出したりして生活を楽しんでいる人は嚥下機能が良いという結果でした4)。
身体を起こすことで筋肉量が保たれることに加え覚醒が促され、楽しみやその他の感覚が脳に良い刺激となります。
また、寝間着のまま過ごすのではなく、着替えて来訪者を迎える者は嚥下機能が良いという研究も進んでいます。
「着替えて離床して楽しく過ごす」には介助者の協力が不可欠ではありますが、医療職でなくても実践できる点が良いところです。
帰省シーズンも近いので、ベッド上で来訪者を迎えるのではなく、たまには装って起き上がった状態で触れ合ったり出かけたりしてみてはいかがでしょうか。
1. Yoshimi K, Hara K, Tohara H, Nakane A, Nakagawa K, Yamaguchi K, Kurosawa Y, Yoshida S, Ariya C, Minakuchi S: Relationship between swallowing muscles and trunk muscle mass in healthy elderly individuals: A cross-sectional study. Arch Gerontol Geriatr 79: 21-26, 2018.
2. Yoshimi K, Nakagawa K, Hara K, Yamaguchi K, Nakane A, Kubota K, Furuya J, Tohara H: Relationship between tongue pressure and back muscle strength in healthy elderly individuals. Aging Clin Exp Res, 2020.
3. Ishii M, Nakagawa K, Yoshimi K, Okumura T, Hasegawa S, Yamaguchi K, Nakane A, Tamai T, Nagasawa Y, Yoshizawa A, Tohara H: Time Spent Away from Bed to Maintain Swallowing Function in Older Adults. Gerontology: 1-10, 2022.
4. Ishii M, Nakagawa K, Yoshimi K, Okumura T, Hasegawa S, Yamaguchi K, Nakane A, Tamai T, Nagasawa Y, Yoshizawa A, Tohara H: Higher Activity and Quality of Life Correlates with Swallowing Function in Older Adults with Low Activities of Daily Living. Gerontology: 1-9, 2021.