「健康な毎日」は口腔ケアから。
ここでは、口腔ケアの手順について、東京医科歯科大学大学院 戸原先生にご紹介いただきます。
DOCTOR’S PROFILE
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東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 医歯学専攻
老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授とはら はるか
戸原 玄先生
専門分野歯科、高齢者歯科、摂食機能障害・リハビリテーション
高齢者を中心とする摂食嚥下障害の治療・リハビリテーションに取り組み、往診による在宅診療や地域連携を積極的に行っている。啓発活動厚生労働科学研究委託費長寿・障害総合研究事業「高齢者の摂食嚥下・栄養に関する地域包括的ケアについての研究」の業務主任者を務めている。ウェブサイト「摂食嚥下医療資源マップ」やその他のインターネットメディア・講演活動などを通して、摂食嚥下障害に関する情報発信も行っている。
口腔ケアについて
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日常生活で「お口から食べること」を自然と行っている私たちですが、老化や疾患などにより、お口から食べることが難しくなることがあります。食べ物が噛みにくい、飲み込みにくい、お口が乾く、お口の中が汚れるなど、様々な症状が出てきます。
そこで、お口本来の機能や状態を取り戻すため、「口腔ケア」が重要です。お口から食べることは、栄養を取り込み、免疫力の向上といった身体的にプラスの効果だけでなく、患者様にとって「生きる楽しみ」となります。口腔ケアを行って、いつまでも好きな食事が食べられるお口を作り、みなさんが楽しく笑って元気に過ごせる毎日にしていきましょう。
口腔ケアとは
お口から食べにくくなった方のお口の中は、分泌される唾液量が減るため口腔乾燥が見られ、細菌の繁殖、食べかすなどの汚れが全体に付着しています。また、口周りや舌の筋肉のこわばり、嚥下機能いわゆるゴックンと飲み込む機能の低下も見られます。
そこで口腔ケアを行い、食べられるお口に回復していきます。
口腔ケアは大きく2つに分けられます。「器質的口腔ケア」(清掃)と「機能的口腔ケア」(リハビリ)です。
この2つの口腔ケアをスムーズに行うため、そしてこれら2つを行ったあとの口腔内の状態を維持するためには「保湿」が大切です。
口腔ケアをはじめる前に
1. 声かけ・意識レベルの確認
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意識レベルを確認します。不安をなくすために声かけをし、軽く手をにぎるなどして安心と信頼を得ましょう。
POINT
口腔ケアを行うからといって、いきなりお口に触れてしまうと、不安がらせてしまいます。
敏感なところにいきなり触れるのではなく、遠いところから徐々に触れていきましょう(脱感作)。
2. 体位を整える
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全身状態やADL(※1)などに応じて、適切な体位に整えます。
唾液や水分などを誤嚥しないようにすることが重要です。 -
- ※1ADL:食事・更衣・排泄・移動など、人間の基本的な
日常生活動作のこと。 - ※2軽くあごを引き、指が3〜4本入るくらいのスペースにしてください。
- ※3誤嚥:食べ物や異物を気管内に飲み込んでしまうこと。
- ※4側臥位:体を横に向けてねること。
- ※1ADL:食事・更衣・排泄・移動など、人間の基本的な
3. 口腔内外の確認
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口唇・歯の汚れ、歯肉の腫れや出血を確認します。口腔内の粘膜・口蓋(上あご)・舌・咽頭の汚れ、乾燥、口臭などをチェックします。
以下のポイントを確認しましょう。
・口唇、歯の汚れ、歯肉の腫れや出血
・口腔内の粘膜、口蓋(上あご)、舌、咽頭の汚れ
乾燥、口臭 など -
POINT
この場合も、いきなり口腔内を触らず、口唇から開始し、徐々に内側を確認しましょう。
Step1. 準備
まずはしめらす
4. 口唇をしめらす
口唇が乾燥している場合は、
水などを含ませ、しっかり絞った
口腔ケア用スポンジなどで
口唇をしめらします。-
POINT
・口腔ケア用スポンジはしっかり絞って水分をきってください。
誤嚥のリスクが高い方にはティッシュなどに押しあてて水分を十分に取りましょう。 ・しめらせには口腔保湿ジェル、ウエットタイプのガーゼもご使用いただけます。
5. 口周りのマッサージ
口の周り(頬や唇など)をマッサージし、筋肉の強ばりをほぐします。
唾液腺マッサージをし、唾液の分泌を促します。
6. 口腔内をしめらせる(汚れのふやかし)
口腔保湿スプレーで口腔内を軽くしめらせましょう。
乾燥した汚れが口腔内粘膜に付着している場合には、スプレー後、少し時間をおいて汚れをふやかしましょう。
POINT
・口腔内全体にまんべんなくスプレーしてください。 ・喉に直接噴霧すると誤嚥のリスクが高まりますので、直接噴霧しないようにしましょう。 ・口腔ケア用スポンジに噴霧して塗布する方法もおすすめです。 ・汚れのふやかしには、口腔保湿ジェルもご使用いただけます。
Step2. 清掃
お口をきれいに
7. 口腔内清掃
大きな汚れがある場合 | しめらせて水分をきった口腔ケア用スポンジやウエットタイプの ガーゼなどでとりのぞきます。 |
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歯の清掃をする場合 | 歯ブラシなどで清掃します。 |
口腔内粘膜の清掃をする場合 | しめらせて水分をきった口腔ケア用スポンジやウエットタイプの ガーゼなどでやさしく清掃します。 |
舌の清掃をする場合 | 舌ブラシでやさしく清掃します。 舌を前に出すと、嘔吐反射が起こりにくいため、スムーズに清掃できます。 |
汚れが落ちたら、水を口にふくませてブクブクうがいをします。
ただし、うがいができない方や、むせやすい方の場合は、吸引しながらシリンジなどで水を注入して洗浄するか、口腔ケア用スポンジや綿棒、ウエットタイプのガーゼなどで汚れを拭い、必ず回収してください。
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①上の歯の外側を、左側から拭き取ります。
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②次は右側から拭き取ります。
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③今度は内側を、左側から拭き取ります。
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④次は右側から拭き取ります。
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⑤上あごを奥から手前になぞります。
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⑥上側が終わったら次は下側です。下の歯の外側を、左側から拭き取ります。
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⑦次は右側から拭き取ります。
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⑧次は左側から拭き取ります。
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⑨次は右側から拭き取ります。
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⑩最後に舌を清掃して、汚れや細菌を回収しましょう。
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⑪ピカピカになりました。
POINT
・上記の清掃方法はあくまで一例です。最初に、口を閉じたままでも出来る頬側(歯の外側)全体を
清掃してから、開口していただいて歯の内側を清掃する方法もあります。
・痛がる部位があるようであれば、そこにいきなり触れてしまうと口腔ケアの拒否にも繋がります。
患者様に配慮したケアを実施しましょう。
・バイオフィルムの破壊などにより、口腔清掃後は一時的に唾液中の細菌数が増加します。
口腔清掃後は必ず汚れを回収しましょう。
・ウエットタイプのガーゼは、開口状態が維持できる方にご使用ください。
・誤嚥のリスクが高い方には、吸引機能付き歯ブラシ・吸引機能付き口腔ケア用スポンジを
ご使用いただき、吸引を行いながら清掃してください。
Step3.
マッサージ
お口を元気に
8. 口腔内マッサージ
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口腔内がキレイになったら、口腔保湿ジェルをつけた
口腔ケア用スポンジブラシなどで、口腔内粘膜
(口蓋(上あご)・頬の内側・上下の口唇の内側)
舌などをマッサージします。POINT
・口腔内粘膜には綿棒、舌にはガーゼの
使用が最適です。 ・口腔保湿ジェルを使用すると、
滑りが良くなり、動きがスムーズになります。 -
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頬の奥から、口のカーブに沿わせながら、手前に口腔ケア用スポンジや綿棒を動かす。上下唇の周辺も。
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上あご全体を前後に
舌は円を描くようにマッサージ。 -
舌の中心溝から斜め下に向かって左右対称に数回ごく軽く感覚刺激を行う。
または、舌のストレッチを行う。 ※左図は一例です。詳しい方法は歯科医師
歯科衛生士など、専門家にご相談ください。
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Step4. 保湿
しあげにうるおい
9. 仕上げ
最後は、口腔保湿ジェルを口腔内全体にまんべんなく塗布します。
塗布後、余分なものは拭き取るか軽く吐き出してください。
POINT
・口腔保湿ジェルを塗布する際は、口腔ケア用スポンジをご使用いただくか、指で塗り広げてください。
・口腔ケアによる刺激で自然に唾液が出て保湿されている方は、口腔保湿ジェルによる保湿は不要
又は、ごくわずかな量で良い場合があります。
・口腔保湿ジェルを塗布する際は、薄く塗り広げましょう。
厚く塗ると、細菌や汚れの温床になる場合があります。
ケアとケアの合間に保湿
口腔乾燥が気になる方には、ケアとケアの合間に、口腔保湿スプレーを用いて口腔内を保湿してください。
POINT
口腔保湿スプレーを用いてこまめに保湿を行うことで、口腔環境を良い状態に保つことができます。
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プロフィール
東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 医歯学専攻
老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授とはら はるか
戸原 玄先生
略歴
- 1997年
東京医科歯科大学歯学部歯学科卒業
- 1998年
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
老化制御学系専攻高齢者歯科学分野大学院 - 1999年
藤田保健衛生大学医学部リハビリテーション医学講座 研究生
- 2001年
ジョンズホプキンス大学医学部リハビリテーション科 研究生
- 2003年
東京医科歯科大学歯学部附属病院高齢者歯科 医員
- 2005年
同 助手、摂食リハビリテーション外来 外来医長
- 2008年
日本大学歯学部摂食機能療法学講座 准教授
- 2013年
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
老化制御学講座高齢者歯科学分野 准教授 - 2020年
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科医歯学専攻
老化制御学講座摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授
所属学会・資格・役職など
●日本老年歯科医学会
理事、摂食嚥下リハビリテーション委員会 委員長、在宅歯科医療委員会 オブザーバ、学術用語委員会 委員、特任委員会 委員、代議員●日本老年歯科医学会
認定医、専門医、指導医、摂食機能療法専門歯科医●日本摂食嚥下リハビリテーション学会
理事、学術賞選考委員会 委員長、教育委員会 委員●日本障害者歯科学会
代議員●NPO法人PDN
理事●全国在宅療養支援歯科診療所連絡会
理事●日本褥瘡学会・在宅ケア推進協会
理事●Funease Cooks Port
理事
など
- 1997年