-
食べるための口を作る口腔ケアと嚥下訓練方法
[公開日:2022/4/28 /最終更新日: 2022/4/28 ]現在、口から食べていない方も、適切な訓練を通して、口から食事がとれるようになる場合があります。ただし、それを目指す場合でも、お口の環境をまず整えることは重要です。今回は、口から食べていない方に対して行う口腔ケアと、どなたが行っても比較的安全な訓練方法をお伝えします。
DOCTOR’S PROFILE
-
東京医科歯科大学病院 歯系診療部門 口腔機能系診療領域 摂食嚥下リハビリテーション科
医員・教授(診療科長)
はせがわ しょうへい
長谷川 翔平先生
とはら はるか
戸原 玄先生
専門家と相談しながら、可能な範囲でできることを行っていきましょう
口から食べていない方への口腔ケア
「口から食べていないと、口の中は汚れない」と想像される方も多いと思いますが、必ずしもそうではありません。食事の際等に唾液が豊富に分泌されることにより生じる自浄作用が弱まるためです。また、唾液があまり出ないため口の中がとても乾燥してしまう方も多いです。
このような環境のため、痰やそれが乾燥したもの、痂疲(かひ)等が残り、口の中の衛生状態が悪くなります。これらは上顎、舌の上、下の前歯の裏側に残りやすいです。
乾燥がかなり大きな影響を及ぼしますので、日常的な加湿として、普段過ごされる場所に加湿器を設置するのは有効です。
また、口腔ケアを行う際は、保湿が重要です。保湿剤は、介助者が使いやすいもので良いですが、ジェルタイプのものがおすすめです。
口腔ケアのポイントとしては、まずは一度に全てを取りきろうと思わず、可能な範囲で行うことです。保湿を続けていると、徐々に乾燥した痰や痂皮がふやけて取りやすくなってきますので、容易に除去できる汚れを取って、毎回保湿を続けていくだけでも効果が出てきます。
また、中には口を開けるのが難しい方もいらっしゃると思います。
有効な方法として、K-point刺激というものがあります。下の奥歯のさらに奥の所にK-pointという所があります。ここを指で刺激したり、スポンジブラシをあてたりすると、口を開けてくださる方も多いです。
有効であった場合、口が開いた所にバイトブロックを差し入れて、開口を保持すると良いでしょう。そのようにすれば、内側の口腔ケアが行えます。
意識レベルが安定しない方で、嚥下訓練に先立って口腔ケアを行う場合、ケア時の反応を見ることはとても大切です。口腔ケアが認知症の方の認知機能に影響を及ぼすという報告もあります。
また、味覚刺激や口腔ケア等の刺激が前頭前皮質の脳血流量を上昇させるという報告もあります。臨床的にも、軽くさすったりした程度では目を開けてくださらない方に、口腔ケアを行うと目を開けてくださるといったことは良くあります。
この時に舌や唇の動きや、唾を飲めるかどうかを観察しておくと良いでしょう。
行いやすい訓練方法
首を回すような運動やストレッチは、首や肩が固い方に有効です。意識レベルが高くない方でも、介助者が首をストレッチすることで実施可能です。
(痛みがある場合は中止してください。また、主治医より頸部を刺激しないよう指示されている場合は、実施前に主治医にご相談ください)
飲み込みに使う筋肉を鍛える訓練として、開口訓練と顎引き訓練というものがあります。
開口訓練は口を思いっきり開けて、10秒間その状態をキープするというものです。
顎引き訓練は、口を閉じた(上下の歯は噛み合わせない)状態で下顎を首に向かって引くもので、これも10秒間その状態をキープします。
いずれも10秒間行うのを1日10〜20回程度行うと良いでしょう。
使い分けとしましては、基本的には開口訓練の方が行いやすいですので、開口訓練を選んで良いと思います。しかし、何らかの理由(顎が外れてしまうなど)で口を開けることができない場合や、開口訓練で効果が感じられなかった場合は顎引き訓練を行うと良いでしょう。