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楽しく食べ続けるための口腔ケア
[公開日:2018/10/30 /最終更新日: 2019/10/30 ]私は在宅や施設に訪問していますが、口から食べることがうまくできずに困っている患者さんが本当に多いことを日々実感しています。ご本人、ご家族、そして医療介護関係者は、誤嚥防止を最優先したり、食べる機能改善のみを目指したりするのではなく、ご本人の日常の不当な不快さを軽減し、時折の非日常のご褒美である“食べる”ということを通してご本人の生活をいかに考えるかが大切だと思います。
DOCTOR’S PROFILE
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東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 医歯学専攻
老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーション学分野教授
とはら はるか
戸原 玄先生
“食べる”を通して患者さんの生活を考える
楽しく過ごすための口腔ケア
私は常日頃、口から食べることができずに困っている方々をたくさん拝見しています。というのも、私の専門は嚥下障害の患者さんがよりよく口から食べることを助けることで在宅や施設に訪問するのですが、口から食べることがうまくできずに困っている人が本当に多いというのを日々実感します。
そういった方々は口の中が汚れていることが多いだけではなく、カラカラに乾燥していてうまく動かせなくなっていることもよくあります。また、しっかりとしたリハビリを行うことで口から食べる機能がなんとか引き出せる方が多いというのも実感するところです。つまり、患者さんが日々楽しんで過ごすための一策に清掃、保湿、リハビリも含めた口腔ケアがあるといえます。
“口から食べること”の意義
そのような中でやはり若いころとは違った目線で患者さんをみるようになってきているように思います。若いころはとにかく新しく学んだ知識を応用したい、どちらかというと先端技術を使いたいということに目が向きがちになると思います。
しかし、口から食べることにはどのような意味があるのかを改めて考えてみることが大事です。もちろん栄養摂取という意味もありますが、そのほかに個人内での楽しさや社会性を持ったうえでの楽しさもあります。例えば何かを食べて「おいしい」と感じたらそれは食事を食べた方自身が得た快い感情になりますし、「これおいしいね」と誰かに語りかけたとすると、それは個人内のみならず共感という社会性を含んだ快い感情につながります。
医療職はやはり安全を最初に優先しがちで、しかもそれがその医療職個人、もしくは所属している機関の常識の中にある安全を優先したくなることが多いと思います。しかし、もともと安全のために生きている人はおそらくいないはずです。例えば一日仕事をして家に帰って、「今日も一日安全だったな」と振り返る経験はあまりないと思います。今日は大変だった、今日は楽しかったなどという振り返りがあって、たまの休みに遠出をしたり、ご飯を奮発したりして私たちは生きています。健常者ですら不当な不快さも時々あるような日常を送る中、たまにご褒美のような非日常が訪れるというのを繰り返して生活しています。要介護状態にあるような方々の場合、そういった不快さは我々の比ではないはずです。
ご本人、ご家族、そして医療介護関係者は、その中で誤嚥防止を最優先したり、食べる機能改善のみを目指すのではなく、日常の不当な不快さを軽減し、そして時折のご褒美の非日常を“食べる”ということを通してその生活をいかに考えるかが大切だと思います。
口腔ケアの目的
今回は口の汚れや乾燥への対策、そしてリハビリについて3名の歯科衛生士の方々からご紹介いただきます。口をきれいにするために口をきれいにする、リハビリをするためにリハビリをするのではなく、その先に何があるのかをよく感じながら進むことがとても大事だと思います。