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摂食嚥下における咽頭期と口腔ケアの関係性
[公開日:2022/1/28 /最終更新日: 2022/1/28 ]日本の人口の高齢化に伴い、誤嚥性肺炎を罹患する患者も近年増加傾向にあります。私たち言語聴覚士は、摂食嚥下機能の評価や訓練を実施することで、患者様の摂食嚥下機能低下を防ぎ、誤嚥性肺炎の予防に日々尽力しています。特に、現在の機能を見極めて誤嚥リスクを判断する「評価」の段階はとても重要であり、様々な視点で患者を観察します。多くの言語聴覚士は、この評価の際に「嚥下の5期」を意識しており、患者が食物を口に取り込む前から飲み込みが終わるまでを段階別に分けて考えています。今回はこの5期の中で、嚥下反射によって食物や水分をのどから食道へ送り込む「咽頭期」と口腔ケアの関係性について説明します。
SPEECH-LANGUAGE-HEARING THERAPIST’S PROFILE
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大阪赤十字病院 リハビリテーション科
言語聴覚士
たかはし こうへい
髙橋 浩平先生
唾液の処理能力に注目しましょう
咽頭期とは
摂食嚥下における咽頭期とは、嚥下反射によって準備期・口腔期を経て咽頭まで送り込まれた食塊を嚥下し、食道に送り込む段階です。一般的にいわれる“ごっくん“というのはこの嚥下反射のことを指し、咽頭期は摂食嚥下における5期の中でも極めて重要な段階であるといえます。
咽頭期における嚥下反射がスムーズに行われないと、食物が咽頭から食道ではなく直接喉頭や声帯を超えて気道に侵入し誤嚥に繋がるリスクが高まります。
また嚥下反射のタイミングでの誤嚥だけでなく、食物が咽頭に残留し後から誤嚥につながるケースなども多く、咽頭期の障害による誤嚥のパターンは様々であり注意が必要となります。
咽頭期における誤嚥リスクを軽減するためには、その方の摂食嚥下機能にあった食事内容の選定や摂取方法の選択も重要です。
しかし、その前段階として咽頭期の機能低下に医療者としていち早く気づけるかということも大事だと思っています。普段の口腔ケアでの観察ポイントを増やすことで、その気づきに導き咽頭期における誤嚥リスクに対処できる可能性があると思います。
咽頭期での唾液処理能力を口腔ケア時に観察し、判断する
咽頭期において重要な働きは食物や水分を飲み込む嚥下反射にあるため、口腔ケア自体との関連性は低いように感じますが決してそうではありません。先程も述べたように、口腔ケアでの観察ポイント次第では咽頭期の機能低下に気づくことができる可能性があり、その方の摂食嚥下機能や誤嚥リスクを判断する上で非常に重要な役割を果たします。
ここでいう観察ポイントとは、「唾液の処理能力」です。私たちは絶えず唾液を嚥下し続けており、咽頭期における嚥下反射はこの唾液嚥下にも不可欠となります。
私の経験上、嚥下障害の中でも咽頭期の障害が大きい方はこの唾液嚥下がスムーズでないことから、咽頭に唾液が貯留して呼吸音が湿性でゴロゴロしていたり痰が日常的に多い印象があります。また、飲食のタイミング以外でもむせなどが多い場合は唾液処理の失敗が原因かもしれません。
普段の会話などでも観察は可能ですが、1番わかりやすいタイミングは口腔ケアの時間だと思っています。口腔内の清掃というイメージが強いですが、これからは唾液処理という部分にも意識を向けて口腔ケアを施行していただくと誤嚥リスクの軽減に繋げられると思います。
咽頭への唾液貯留を確認する方法はいくつかありますが、一般的な方法のひとつとして頸部聴診法があります。頸部聴診法は聴診器で頸部から呼吸音や嚥下音を聴き取り、咽頭の食物や唾液の残留を評価する方法です。この方法はベッドサイドなどでも実施でき、患者さんへの侵襲もなく嚥下評価ができるため多くの言語聴覚士が日常的な嚥下評価の場面で利用しています。
実施方法としては、聴診器で喉仏付近を含む正中部を避けて喉頭の側面を聴診します。左右ともに聴診し、咽頭部の唾液や痰の貯留を確認してみてください。
正常時の呼吸音と唾液など残留時の呼吸音が聞き分けられるようになると嚥下評価に利用できると思います。まずは自身や健常者を聴診し、正常時の呼吸音を覚えることをお勧めします。
普段の口腔ケアの中で、咽頭期の機能低下がある・現在の食事内容や方法では誤嚥リスクがあるのではと思われた場合は、いち早く医師や歯科医師、言語聴覚士に相談するようにしてください。
★髙橋先生が携わる摂食嚥下障害予防普及団体SMAが運営する「嚥下チェッカー」はコチラ