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摂食嚥下における食道期と口腔ケアの関係性
[公開日:2022/4/28 /最終更新日: 2022/4/28 ]日本の人口の高齢化に伴い、誤嚥性肺炎を罹患する患者も近年増加傾向にあります。私たち言語聴覚士は、摂食嚥下機能の評価や訓練を実施することで、患者の摂食嚥下機能低下を防ぎ、誤嚥性肺炎の予防に日々尽力しています。特に、現在の機能を見極め誤嚥リスクを判断する「評価」の段階はとても重要であり、様々な視点で患者を観察します。多くの言語聴覚士は、この評価の際に「嚥下の5期」を意識しており、患者が食物を口に取り込む前から飲み込みが終わるまでを段階別に分けて考えています。今回はこの5期における最終段階である食道期と口腔ケアの関係性および注意点についてお話させていただきます。
SPEECH-LANGUAGE-HEARING THERAPIST’S PROFILE
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大阪赤十字病院 リハビリテーション科
言語聴覚士
たかはし こうへい
髙橋 浩平先生
口腔ケアがトラブルを誘発しないように
食道期とは
食道期とは食物の取り込みから始まり咀嚼・送り込み・嚥下と進んできた流れの最終段階で、嚥下反射によって飲み込まれた食塊を重力と食道の蠕動(ぜんどう)運動の働きで胃へと送り込みます。
食道期の機能低下は食道がんなどの器質的な影響、脳卒中後の機能的な影響など様々な要因で起こりますが、それらがなくても、嘔吐反射を誘発する過度な刺激が与えられたり、食後の姿勢が適切でなかったりすると、食道期における食物の逆流を誘発してしまう可能性があります。
嚥下障害による誤嚥にはもちろん注意が必要ですが、逆流した嘔吐物などの誤嚥も非常に危険であり、日常のケアの中で気をつけなければいけません。
口腔ケアは食後に行うことが一般的ですが、口腔内に刺激を与える行為であるため逆流などのトリガーとなり得る可能性があります。食後に行う口腔ケアでは、適切なタイミングを理解し十分に環境調整を行い食道期におけるトラブルを回避していく必要があります。
食後の口腔ケアを安全に実施するために
食道期における逆流などの症状を口腔ケアによって誘発しないためには、大きく3つのポイントに注意する必要があります。
1つ目は「口腔ケアのタイミング」です。
前述したように食道期は重力と食道の持つ蠕動運動によって食物を胃へと送り込む段階です。食後間もないとまだ送り込みの途中であり、食道の上部などに食物が停滞している可能性もあります。少なくとも10分〜15分、食道期に機能低下があることがわかっていれば30分以上時間を空けるなど実施する時間を工夫する必要があります。
2つ目は「口腔ケアによる刺激を最小限に抑えること」です。
口腔ケアではスポンジブラシを使用することが多いかと思いますが、咽頭後壁や軟口蓋部、舌の後部などは嘔吐反射を誘発しやすい位置ですので、食後の口腔ケアにてその付近の清掃が必要な際はより丁寧に行い、場合によっては少し時間をおいてから行うなど工夫が必要です。
また口腔ケアの際、口腔内に溜まった水分を正しく嚥下できずむせてしまうことにも気をつけなければなりません。むせが逆流を誘発することがありますので、吸引などで適宜口腔内の水分を回収しながらケアを実施するようにしてください。
3つ目は「口腔ケア時の姿勢」です。
口腔ケア時の姿勢は人によって様々だと思いますが、食後の口腔ケアでは食事を行っていた姿勢とできるだけ近い状態を保ち実施することが逆流などを誘発するリスクを減少させられると思います。例えば食事は車椅子で行っていたにも関わらず、口腔ケアは食後ベッドに戻り30度の姿勢に合わせて実施するなどは、そうすることで逆流のリスクが増加するのでかえって危険です。ただし、体調や血圧管理などでやむを得ない場合もありますのですべてではありません。
上記の3つのポイントを理解いただき、食後の口腔ケアを患者さんに無理なく実施していただきたいと思います。
★髙橋先生が携わる摂食嚥下障害予防普及団体SMAが運営する「嚥下チェッカー」はコチラ