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災害弱者のための口腔ケアについて(1)
[公開日:2022/7/29 /最終更新日: 2022/7/29 ]「災害」と聞くと、真っ先に地震や洪水など自然災害が想像されますが、公害や産業、交通災害など人が原因となって起こる人為災害もあります。災害の規模や被害にもよりますが、私たちは、いつ、どこで、どのような災害に遭遇してもおかしくない状況と言えます。私たちは、大きな災害に直面すると突発的な不安や恐怖による混乱状態に陥ります。今回は、そのような混乱状態の中でも口腔ケアが継続できるように、災害弱者のための口腔ケア方法について2回に分けてご紹介します。
DENTAL HYGIENIST’S PROFILE
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兵庫県立尼崎総合医療センター 歯科口腔外科
歯科衛生士
おおにし よしみ
大西 淑美先生
災害時にも口腔ケアを継続できるよう、定期的にシミュレーションをしておきましょう
はじめに
「災害」と聞くと、真っ先に地震や洪水など自然災害が想像されますが、公害や産業、交通災害など人が原因となって起こる人為災害もあります。
災害の規模や被害にもよりますが、私たちは、いつ、どこで、どのような災害に遭遇してもおかしくない状況と言えます。
1995年の阪神・淡路大震災による災害関連死のうち24.2%を肺炎が占めており、さらに被災者の口腔ケアの有無と誤嚥性肺炎による死亡の間には大きな関係があったことが報告されています。
たとえ、直接的な被害や危機から免れても、被災後の生活環境の変化等で体調を崩され亡くなられる“災害関連死”の多くは、災害弱者(要配慮者)※と言われる方々です。
私たちは、大きな災害に直面すると突発的な不安や恐怖による混乱状態に陥ります。
今回は、そのような混乱状態の中でも口腔ケアが継続できるように、災害弱者のための口腔ケア方法についてご紹介します。
※災害弱者:地震や台風などの災害の際、避難や復興などのさまざまな局面において、通常よりも困難な状況が生じる人たちの総称。
情報能力や行動能力に制限がある人をさす。病人・障害者・高齢者・子供・妊婦・外国人・旅行者など。
災害弱者のための口腔ケア
厚生労働省から福祉避難所の設置・運営のガイドラインが出され、災害弱者のための避難支援の動きがようやく広がり始めています。
地域のバリアフリー施設へ避難する場合を想定し、持ち出し物品の優先順位を整理しておきましょう。
これは、トラベルセットなどコンパクトにまとめられたものという意味ではなく、それぞれの口腔環境にあったもの、普段の口腔ケアで使っている歯ブラシや補助具のことです。
口腔ケア用品も食料と同様にローリングストックしておくことをお勧めします。
【主な口腔ケア用品】
歯 :歯ブラシ、ワンタフトブラシ、歯間ブラシ、デンタルフロス、歯磨き剤
口腔粘膜 :スポンジブラシ、口腔ケア用ウエットガーゼ、口腔保湿剤(ジェル、スプレー、リンス)
義歯 :義歯ブラシ、義歯洗浄剤、義歯保管容器
その他 :コップ、吐き出し容器、ペーパータオル、タオル等
【災害訓練と口腔ケアシミュレーション】
「備えあれば憂い(少)なし」、防災訓練等のタイミングに合わせて、口腔ケアも定期的にシミュレーションをしておきましょう。
また、口腔ケア用品以外で欠かせないのが水です。
水は備蓄品としてとても重要ですが、1日1~2ℓを飲料等に要するため、口腔ケアに使用できる量は限られてきます。
シミュレーションをする場合は、水が「あるとき」と「ないとき」を想定しておきしましょう(図1)。
なお、不安や恐怖は唾液の分泌量を低下させます。
唾液の分泌にはリラクゼーションや唾液腺マッサージが有効ですが、口腔ケア以外の時でも声を掛けあうなど少しでも緊張を解きほぐすことを心がけましょう。
図1 災害弱者の口腔ケア内容
次回は、「水がないとき」に行う、口腔ケアの方法についてご紹介します。