-
ユマニチュードケアと口腔ケアへの活用方法(1)
[公開日:2024/4/30 /最終更新日: 2024/4/30 ]これまでのコラムで、口腔ケアの重要性や手技について述べられてきました。しかし、口腔ケアの実践の中で、困難だと感じる要因の一つに認知症などの症状による「口腔ケアへの拒否」があげられます。
口腔ケアにとどまらず、そうした拒否や不快感の現れといった精神・心理状態に対するケアとして、これまで様々なケアメソッドが提唱されています。今回は、そのうちの一つである「ユマニチュード(Humanitude®)」について、2回に分けてお話させていただきます。DOCTOR’S PROFILE
-
・東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 医歯学専攻
老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーション学分野 非常勤講師
・静岡県立大学短期大学部歯科衛生学科 講師・東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 医歯学専攻
老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授(診療科長)まつばら ちあき
松原 ちあき先生
とはら はるか
戸原 玄先生
「ユマニチュードの基本の4つの柱」について学んでいきましょう。
ユマニチュード(Humanitude®)とは
ユマニチュードとは、体育学を専門とするイヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏によって提唱されたコミュニケーションの手段、技術です。ユマニチュードは、「人とは何か」「ケアをする人とは何か」という哲学をベースとし150を超える実践技術からなります。
ユマニチュードという言葉は、フランスの詩人の活動に起源をもち、「人間らしくある」状況を意味し、「あなたのことを、わたしは大切に思っています」と思いながらケアを実践し、「人間らしさ」を尊重する状況こそがユマニチュードであるとされています。この技法は認知症の方だけでなく、ケアを必要とするすべての人に使える技法だといえ、日本でも介護福祉の現場で認知されて広く用いられています。
ユマニチュードの基本の4つの柱
ユマニチュードでは、前述した人間らしさを尊重する考え方をベースに150を超える実践技術からなりますが、基本となる4つの柱をもち、「見る」「話す」「触れる」「立つ」ことを掲げています。どの技法も「あなたは、ここにいるのですよ」というメッセージを送り続けることが重要であり、ユマニチュードの原点と言われています。
「見る」
同じ目線で目を合わせ「平等」を、正面から見つめることで「正直さ、信頼」を、長く見つめることで「友情・愛情」を示すメッセージとなる、と言います。専門職として「見る」を実践する際には、ベッドや椅子を動かしてまで、その人の視線をつかみにいくことが重要で、その人に注意を集中してもらうことにつながります。
ユマニチュードの技法には「目があったら2秒以内に話しかける」という技法もあります。目があった相手が話しかけもせず、こっちを見ていると怖いという心理的状況に陥るという発想に基づき、提唱されています。ユマニチュードはこうした細かなテクニックまで具体的に示されています。口腔ケアの際も、初めの挨拶のときはもちろん、動作の合間で視線を合わせ、歯ブラシなどもご本人の視界に入るように見せることも、口腔ケアをしていることを伝える手段になるかもしれません。
「話す」
「話しかけない」ことは「あなたは存在していない」というメッセージであるとされます。声のトーンは優しく、歌うように、穏やかに、相手の尊厳を認めた表現になることが重要です。また話せない方のケアをする際も、「オート(自己)フィードバック」という技法を用いるとよいとされています。自分たちが今実施しているケアの内容を実況中継することをオートフィードバックと呼び、ポジティブな言葉を添えることでより効果的になるといいます。
口腔ケアの場面であれば「今から歯磨きをしますね。お顔を触りますね。お口に歯ブラシを入れますね。今、奥の歯を磨いていますよ。磨き残しがあったところがきれいになりました。さっぱりしましたね。気持ちいいですね」といった声かけが想定できます。予告する言葉と実況中継、そこに「さっぱりしましたね」などのポジティブな言葉があるとより効果的にコミュニケーションがとれた口腔ケアができるでしょう。
ここまでユマニチュードの基本の4つの柱のうち「見る」「話す」についてお話しました。次回は残りの2つの柱「触れる」「立つ」についてご説明します。
参考文献
・本田美和子、イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ、ユマニチュード入門、医学書院、2014
・Shirobe M et al., Association between Dementia Severity and Oral Hygiene Management Issues in Older Adults with Alzheimer’s Disease: A Cross-Sectional Study. I Int J Environ Res Public Health. 2023:20(5), 3841.