口腔ケアマウスピュア

口腔ケア お役立ち情報Column

周術期のリスク管理としての口腔健康管理

[公開日:2020/1/30 /最終更新日: 2020/1/30 ]

がんの治療には、三大療法と呼ばれる「手術療法」「薬物療法」「放射線療法」があります。いずれの療法においても治療開始前からの口腔健康管理は大切な役割を担っています。治療開始前から口腔環境を整え、セルフケアを行っていただくことで、より効果的に感染予防あるいは口腔粘膜炎、口腔乾燥などの副作用の重症化の予防へとつながります。 今回は、口腔健康管理の詳細および周術期におけるセルフケアの指導ポイントについてご紹介します。

DENTAL HYGIENIST’S PROFILE

周術期のリスク管理としての口腔健康管理

公益社団法人 大阪府歯科衛生士会

歯科衛生士

おおにし よしみ

大西 淑美先生

周術期のリスク管理としての口腔健康管理

歯科・医療従事者と患者様で行う口腔健康管理

周術期のリスク管理としての口腔健康管理

がんの治療には、「手術療法」「薬物療法」「放射線療法」がありますが、いずれの療法においても治療開始前からの口腔健康管理は大切です。

口腔健康管理は、手術療法では誤嚥性肺炎などの感染予防、放射線療法と薬物療法では口腔粘膜炎や口腔乾燥などの副作用による重症化の予防や早期回復につながります。

治療開始前から口腔環境を整え、患者様やご家族の方にセルフケアを行っていただくことで、感染予防あるいは上記の副作用の出現リスクの低下および重症化の予防へとつながります。

周術期に想定されるリスク

周術期(術前から術後)には様々な感染症や副作用などのリスクが想定されます。

【周術期に想定されるリスク】
● 気管内挿管時に口腔細菌が下気道へ侵入するリスク
● 人工呼吸器関連肺炎等の術後肺炎のリスク
● 頭頸部領域の手術では手術部位感染(SSI)のリスク
● 術後の絶飲食期の口腔細菌叢の変化のリスク
● 術後の口腔トラブルに関連した経口摂取の再開遅延のリスク

これらのリスクを回避するために口腔健康管理を行い、口腔環境を整えることが大切です。
口腔健康管理の内容は次の通りです。

周術期に想定されるリスク

口腔健康管理における口腔機能管理・口腔衛生管理、口腔ケアの役割

【口腔機能管理と口腔衛生管理】
● 感染源の除去
● 動揺歯の抜歯および固定、マウスピースの作成
● 歯周基本検査を基にスケーリングと周術期の口腔ケア指導

【口腔ケア】
● 歯磨き(歯ブラシを使って歯面を磨く)
● 粘膜ケア(舌、頬粘膜、口蓋、歯肉など口腔内の歯以外を口腔ケア用スポンジやガーゼで保清する)
● うがい(歯と粘膜から浮き上がった汚れをブクブクうがいで口腔外へ吐き出す)
● 義歯清掃(口腔外へ取り出して保清する)
● 口腔保湿(口腔乾燥症状がある場合は清掃後に口腔保湿剤を併用する)

このうち、口腔ケアについては、歯科・医療従事者が行うだけでなく、患者様やご家族の方にもセルフケアとして行っていただく必要があります。

セルフケアの指導ポイント

前述のように、患者様やご家族の方にセルフケアを行っていただくことが、患者様の早期回復には不可欠です。
ここではセルフケアの指導ポイントをいくつかご紹介します。

●術前の口腔ケア方法について
歯磨き、粘膜ケア、ブクブクうがいを励行し、手術当日までに口腔環境をベストな状態にして維持するようにしましょう。

<☝ポイント>
・手術前日の夕食が絶食の場合でも就寝前は必ず歯磨きが必要です。また、手術当日の起床時と手術室へ行く前の歯磨きも忘れずに行うよう
に指導しましょう。
・口腔環境がベストな状態の目安は、目で見て歯肉の発赤や腫れが引き締まったり、自覚症状では歯肉が浮いた感じが軽減したり、舌で歯を
触れるとツルツルしているなどが挙げられます。

●術後の口腔ケア方法について
ベッド上で安静の状態であっても、口腔ケアができる環境を整えましょう。
口腔ケアは早期再開が大切です。経口摂取の再開が口腔ケアの再開時期ではないことを十分に指導しましょう。

<☝ポイント>
・絶飲食中は自浄作用が低下するため感染リスクは高くなります。意識して口腔ケアを行い、口腔乾燥がみられる場合は口腔保湿剤を使用
するように指導しましょう。

●セルフチェックについて
患者様が毎日、口腔内を自ら進んで観察されるような習慣を作りましょう。
術後は歯肉が腫れてきたり、舌が白くなったり黒くなったり、擦っても取れない、ピリピリ痛いなど変化があれば主治医または担当看護師に報告するように指導しましょう。

<☝ポイント>
・絶飲食中や抵抗力が下がっている時期は舌苔が付きやすくなっています。嘔気を誘発しないように注意しながら、舌ブラシや口腔ケア用
スポンジで舌をケアするように指導しましょう。
・口腔内の粘膜は口腔ケア用スポンジでケアを行いましょう。特に、歯槽部や口蓋は剥離上皮が停滞しやすい部位です。

セルフケアを行っていただくために私たちにできること

これから先、全ての患者様に対して、毎日、私たちが口腔ケアを提供できる保証はありません。だからこそ患者様やご家族の方によるセルフケアが大切な役割を果たします。

口腔内には、様々な症状が現れます。
患者様やご家族の方には、口腔乾燥には口腔保湿剤、舌苔には舌ブラシや口腔ケア用スポンジ、粘膜ケアには口腔ケア用スポンジというように、症状に合った口腔ケア製品を用いたセルフケアを行うことが、患者様の口腔環境を早期に回復させQOLの向上へとつながるということを十分に説明し、セルフケアの必要性を知っていただくことが大切です。

その他の記事

  • 医科と歯科の連携の重要性について(1)

    医科と歯科の連携の重要性について...

    本年度の診療報酬改定によって、医科と歯科の連携がより推進されることになり、重要なものとなりました。 また、口腔の状態と全...

    詳しく見る

  • 口腔ケアにおけるスポンジブラシと保湿剤の重要性

    口腔ケアにおけるスポンジブラシと...

    口腔ケアに必要な物品と聞き、まず思いつくアイテムとしてスポンジブラシや保湿剤があるのではないでしょうか。この2つのアイテム...

    詳しく見る

  • ユマニチュードケアと口腔ケアへの活用方法(2)

    ユマニチュードケアと口腔ケアへの...

    これまでのコラムで、口腔ケアの重要性や手技について述べられてきました。しかし、口腔ケアの実践の中で、困難だと感じる要因の一...

    詳しく見る

  • ゼロから始める口腔ケア

    ゼロから始める口腔ケア

    「口腔ケアに必要な準備」というと物品の準備を想像しがちですがそれだけではありません。他にも姿勢の準備や心の準備も重要です。...

    詳しく見る

Scroll Up